旅の醍醐味、一期一会の楽しさ
数年前、家族の転勤で英国に居住し、その間に欧州を何カ国もめぐりました。そして今「外国旅行で印象的だったのは何か」を振り返ると、意外にも思い出深いのは、有名な観光地や大聖堂ではなく、ガイドブックにも載らない小さな村だったり、高級店のグルメではなく、スーパーや商店のフルーツだったり。地元の人との会話や笑顔、ささやかな親切も忘れられません。
拙宅では毎年ホストファミリーを行っていますが、訪れる外国人が静岡市で喜ぶのは私と同様で「地元の日常の景色や庶民派フード」でした。例えば、我々には見慣れた段々の茶畑。これは高確率で喜ばれます。そして釜揚げシラスにサクラエビ料理。あの小ささに目を丸くする人も。濃いグリーンの深蒸し緑茶や、イチゴ・ミカン狩り。狭くて薄暗い、ディープ感満載なおでん屋さん。私たちにしたら『えっ、そんなものに興味が?』と思えますが、実は「そんな日常」に「宝物」が隠されていると気づきました。
もちろん、何よりも大切なのは「現地の人との交流」です。道を尋ねたり、カメラのシャッターを押してあげたり。言葉は通じなくたって、お互い身振り手振りの意思疎通。そんな悪戦苦闘すら「旅の醍醐味・一期一会の楽しさ」です。加えて地元民の笑顔や親切心があれば、何よりの感動体験です。
誰もが旅行を楽しめる今、観光客は「より特別感ある」「心に温かさが残る」経験を求めています。私たちはともすると「静岡県は、京都や東京みたいな観光名所が少ないし…」と肩を落としがちですが、観光の魅力はハコモノや寺社だけではないはず。今までの経験を生かして、これからも国内外の観光客に「シズオカ自慢」できるものを見つけて紹介していきたいと思います。(文・写真=赤池京子、イラストも)
PROFILE
あかいけ・きょうこ
フリー編集者・イラストレーター。「マンガでわかる『西式甲田療法』」など著書は10冊以上。茶道(裏千家)が趣味だが、稽古では菓子を食べるのに夢中で、なかなか上達せず。民俗学、古代文明、フシギ話も興味津々。